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深紅/著者:野沢尚

 修学旅行の途中で連れ戻された奏子を待ち受けていたのは、家族4人の遺体だった。父、母、幼い弟二人は顔をつぶされ殺された。秋葉家一家惨殺事件。マスコミをにぎわせたこの事件の犯人は都築則夫という父の仕事の関係者だった。

 心の奥に人には見せない黒い芯を抱えたまま成長した奏子。ある日、犯人・都築則夫に死刑判決が下ったというニュースを聞き奏子は動揺を隠せない。

 以前犯人の上申書を読み自分と同い年の娘がいる事を知っていた奏子は、父の死刑判決を受けその娘が雑誌の取材に語った言葉に興味を覚え、その娘に会いに行こうと決意する。

 首尾よく犯人の娘・未歩に近づけた奏子。未歩の生活を調べていく内に奏子はある事に気付く。

 脚本家らしい場面の描き方である。その時の語り手(主人公を含む)の動きだけでなく、周囲の人間の小さな動きまで事細かに描かれている。まるでドラマを見ているような感じで、頭の中で想像できる。その特徴が顕著に表われているのが第一章である。

 第一章は事件のたった一人の生き残り奏子の視点で語られている。修学旅行中のある夜担任の先生から呼び出され家に戻るまでが実に細かく描かれている。思考の一つ一つまでも。そして、事件を知りたった一人だけ生き残ってしまったという罪悪感も無理なく自然と形成過程がわかる。

 そしてがらっと変わって第二章。加害者・都築則夫の上申書により事件のあらましを知る。第一章では何故殺されたのかは語られない。犯人の名はわかるものも動機について知る事はできない。幼い少女から家族を奪った非道な男という読者の印象の都築が、その犯行を行うに至った経緯は同情を禁じえない。

 またこの上申書はぐいぐいと読ませる力を持っている。第一章・第二章は本当に素晴らしい。しかし、前半部分の物語が持つ吸引力の素晴らしさにひきかえ、後半部分の弱さは否めない。

 奏子が加害者の娘と会いたいという心情はわかる。同い年で、あの事件により運命を捻じ曲げられ、心にどうしようもない傷を負った者同士として、相手に会いたくなるという事は。しかし、そこからの展開が私にはどうにもきれいにまとめただけという印象がある。どうせなら、もっとどろどろになってしまった方が良かった。