This page書評の泉 TOP > 冒険の国/著者:桐野夏生

冒険の国/著者:桐野夏生

 海を埋め立て、開発が進められている土地に立つ新築マンションの11階に住む永井一家。窓から東京ディズニーランドが見えるマンションには開発によって移り住んできた家族が多いなか、一家はどこかそぐわない感じが否めないと感じていた。

 次女・美浜は一回この街から逃げ出した事がある。原因は同級生でもあり付き合っていた英二の死。何故死んだのか理由について様々な噂が飛び交うなか、美浜も原因がわからず街から逃げ出す。

 数年後、結局美浜は街に戻り英二の兄・恵一と再会する。それをきっかけに今まで意識するともなく逃げていた英二の死と向き合おうとする。

 この作品は作者が1993年『顔に降りかかる雨』で、江戸川乱歩賞を受賞する以前に書かれた作品であり、ある種の“ 甘さ”は否めない。桐野夏生という作家は女性の利己主義を描かせたら天下一品だが、この作品では利己主義を貫く事に恐れを感じる女性が主人公であり、その描き方にはまだ“甘さ”があると感じる。この作品を読むと桐野夏生のその後の変化は進化と言ってもいいと感じれる。

 さて主人公には予兆を感じ取れる能力がある。しかし、なぜか恋人・英二の自殺の予兆は感じ取れなかった。それどころか前日にケンカをしてしまいその自殺に対して負い目を感じてしまっている。その英二の死以後その家族と会っていなかった美浜は、突然英二の兄・恵一と再会し変化が訪れるだろう予兆を感じる。

 しかしその変化は美浜の期待していたものとは違う。その変化をより際立たせる為に桐野夏生は美浜のマンションの住人・宇野美也子を登場させる。この宇野に訪れた変化は、美也子を外へ外へと向かわせていく。しかし美浜に訪れた変化は彼女を内へ内へと向かわせていく。内へと向かう変化にたえられる程強い女性ではない美浜は憐れである。

 そして美浜には内面の変化と共に、外的環境の変化も訪れる。静かで変化の無かった周囲が変わっていく。まず初めに娘・美浜と共に英二の死にとらわれ、家にこもっていた父親が、陶芸という趣味を見つけ外に対して向かっていく。そして職場の環境も変わっていく。

 美浜に劇的な変化が訪れる前に物語は終わる。そこが今の桐野夏生と大きな違いがある。今の桐野夏生は変化が訪れた女のグロさをどこまでも描いていく。その点が好きな私にとっても物足りない作品であった。